top of page

純肉の背景と技術課題

"SHOJINMEAT"とは、筋肉細胞を増やして作る純粋な肉、「純肉」です。

牛肉の生産には穀物の栽培に比べて40倍の農業資源が必要です。すでに世界の農地の7割が何らかの形で食肉生産に使われる中、食肉需要は人口増加と経済発展に伴って増大し続けています。新興国では食肉生産による森林破壊が大きな問題になっています。日本国内でも牛肉輸入での他国企業への「買い負け」が起きています。

​その中で、細胞を培養して作る純肉(英語:Clean Meat)は、食文化と持続可能性を両立する決定打として期待されています。

有志団体"Shojinmeat Project"は2014年に始まり、細胞培養技術の研究、実験機材の開発、公開勉強会の実施、イベント出展、食品安全と法規制のあり方の検討、海外団体との連携活動、アーティストの創作支援活動などを行っています。2016年に産業化を目指す「インテグリカルチャー(株)」をスピンオフし、市民科学(Citizen Science)主導での技術の普及と社会コミュニケーション活動を行っています。

開発した低価格培養液で培養した筋肉細胞のかたまり

大量培養した鶏肝臓細胞(世界初の「培養鶏フォアグラ」)

​高校生による個人宅での純肉培養実験(2017.08.21 NHK放送)

最新の進捗状況

一番の技術課題は大規模化と低コスト化です。インテグリカルチャ-(株)が産業規模化を目指す傍らで、Shojinmeat Projectでは一般の方々も独自に純肉を作れる技術を開発しています。こうした一般普及型のバイオテクノロジーは、「DIYバイオ」とも呼ばれています。

純肉100g相当の細胞を培養するには、数百万円から数千万円がかかっていました。例えば「レバー」を作ろうと肝臓細胞を100g培養すると、4000万円ほどかかってしまいます。このコストの高さは再生医療でも大きな問題になっています。そこでShojinmeat Projectでは2016年に同じ量の肝臓細胞の培養を40万円程度で行う技術を開発し、2017年9月には世界初の「培養フォアグラ」の試食を行いました。

2017年5月には個人宅で細胞培養をする技術の開発に成功し、成果は関係者による同人誌にて読むことができます。(動画その1その2) 2018年2月にはビタミン剤等から細胞培養液を合成し、鶏の心臓細胞の初代培養に成功しました。最新の開発成果等はTwitterをご覧ください。

細胞培養のコストダウン

従来の技術では細胞培養液と実験機材が高価で、純肉100gを作るのに500万円以上かかります。これでは一般の方はまったく手が届きません。

目標は4桁のコストダウンであり、この数字は既存の方法の改善では到底達成できないため、従来とはまったく違うアプローチでの開発を行っています。

通常の細胞培養液は、基礎培地、仔牛血清(FBS)、成長因子から成っています。この中でFBSは高価(培養液1Lあたり¥9000)である上に、クロイツフェルト・ヤコブ病(狂牛病)プリオンタンパク汚染のリスクを抱えています。

2015年8月に行った初期試作検討で、酵母由来のFBS代替を開発し、培養液の価格を1/6にしました。2017年4月には卵黄をFBS代替とすることで、価格をさらに低減しました。現在はFBS代替技術のさらなる実証と、細胞の共培養方式によるFBSおよび成長因子の不要化に取り組んでいます。

基礎培地についてもスポーツドリンクへの一部置き換えや、ビタミン剤とアミノ酸サプリなどの家庭用品からの合成に成功するなど、大幅に低価格な「食品グレード培養液」を実証しました。実験機材についても、培養液に「天然の防カビ剤」である卵白を混ぜるなどして、一般家庭の台所でも細胞培養が可能になりました。今後もFBSと成長因子の不要化と実験機材の自作や工夫(扇風機による遠心分離など)とあわせ、100gで600円相当を目指していきます。

個人宅で合成した細胞培養液原料(FBS代替)

外部から成長因子を添加せずに肝臓細胞を培養する技術の実証データ(2016年、​国際学会で発表)

培養の効率向上

 

純肉の生産には、筋肉細胞を効率よく大量に培養する必要があります。

 

これまで、筋肉細胞は、実験室でシャーレの底に薄く広げる方法で培養されてきました。しかしこの方法では食品として非現実的な価格になってしまいます。そこでシャーレの底面だけでなく高さ方向にも培養することで、培養効率を100倍以上向上させることができます。これには「細胞の足場」とも呼ばれるミクロの構造物が使われ、こうして3次元的な組織を作る技術は生体組織工学("tissue engineering")と呼ばれています。

 

この技術の最大の応用先は当面は再生医療ですが、将来的には食感を作ることにも応用可能です。例えば、繊維状の細胞の足場の上で筋肉細胞を培養すればスジ肉となり、布のように編み込まれた「細胞の足場」ならば、弾力性のあるモツ肉のような食感になります。ただ筋肉細胞を増やすだけならばひき肉しかできませんが、「細胞の足場」や生体組織工学の技術を使えば、ベーコンやステーキも作れるようになります。

 

"Shojinmeat Project"では、低価格培養液と生体組織工学の合わせ技で、細胞培養のコストを4~5桁低減させ、手の届く再生医療と食糧生産の実現を目指しています。

個人宅での細胞培養液の合成 (2018年)

医療と食品の狭間に位置する細胞農業 (New Harvestより)

社会コミュニケーションと文化発信

 

技術的課題以外に、純肉は2つの大きな課題を抱えています。一つは「細胞農業」という概念が普及していないこと、もう一つは文化的・宗教的な課題です。

 

細胞農業(Cellular Agriculture)とは、農産物を細胞培養によって生産することです。ビール・みそ・ヨーグルト・パン酵母などの培養が伴う食品加工業、いわゆる「醸造業」に通じるところもあります。

 

ただし純肉培養となると、技術は「医療」の世界にあり、食品産業にはありません。細胞農業は医療と食品の狭間に落ち、技術分野として認知されずに専門家も予算も人材もいない状況に陥っています。その状況を打破するため、海外NPOと共に「細胞農業」の概念の確立を目指しています。

純肉は農業の在り方と、すべての人の生活の基本である「食」と生命倫理観を大きく変える可能性があり、世界各国で議論が始まっています。そのため社会コミュニケーションは非常に重要であると考えています。インドに始まりアジア諸国は、この課題と3000年にわたって真剣に向き合ってきました。そのアジアを代表してこのプロジェクトに日本が取り組むことは、非常に大きな意義があります。

Shojinmeat Projectでは、文系や理系や芸術系が一か所に集まり、アーティスト支援や生命倫理勉強会など、分野を跨ぐ様々な活動を通じて民主化された細胞農業の実現を目指しています。

ご支援のお願い

 

ご自身でも実験と研究開発をしたい方、イベント実施やメディア対応などの社会コミュニケーション活動に加わりたい方、純肉や細胞農業に関する創作活動をしたい方など、お力添えいただける場合はこちらをご参照くださると幸いです。

bottom of page